平成夢十夜 第三夜
こんな夢を見た。
色白で髪の長い女が赤ん坊を抱いている。
生まれたばかりなのか、非常に小さく、男か女かもわからない。
赤ん坊は女の腕の中で小さな手を握ったり開いたりを繰り返している。
「あなたの子よ」
女がそういう。赤ん坊に顔を近づけてみた。
「目が見えないの」
赤ん坊の目は確かに閉じたままだった。「うー」とも「あー」とも取れる曖昧な呻きが聞こえる。
私はこの子に出来るだけ美しい音を聞かせてあげようと思い、海の波の音、風が木の葉を揺らす音、鳥が春の朝にさえずる音を鳴らした。
赤ん坊は体を自ら揺すった後、小さく微笑んだ。しかし、それもつかの間、今度は先ほどよりも大きな声で鳴き出した。
「耳も聞こえなくなったわ」
女は表情を変えずに言った。
それならばと秋の穏やかな日差しの匂いとほのかな金木犀の香りを漂わせた。
果たして赤ん坊は泣き止んだ。そのまま様子を見ていると静かな寝息を立て出した、小さなお腹が膨らんだり元に戻ったりをゆっくりと繰り返している。
20回ほど上下動を繰り返した所で、女が両の眉を顔の中央に寄せた。
「鼻も効かなくなったの」
涙が静かに私の頬を伝って、つま先の上に落ちた。冷たい、冷たい涙だった。
女は赤ん坊を強く抱きしめた。私は女のそばに寄って赤ん坊の手を優しく握った。暖かく、軟らかい手のひらだった。
赤ん坊は目を覚まし、にこやかに「あー」と言った
私はその子を幸と名づけた。