平成夢十夜 第一夜
こんな夢を見た。
布団の上に、若い女が仰向けに寝ている。
顔は少しふっくらとして丸みを帯びているが、肌は処女雪のように白い。透き通るような肌の中で、頬だけが、熟れた桃の様に不自然に赤々としている。顔から血の気が引いているようで、唇の色も薄く、頬の方が紅い。
黒い髪が顔の周り、枕の上に広がっている。
潤んだ大きな瞳がじっと私を見つめている。
私の両手は女の首にあった。両の手を合わせて、首を包み込むようにしている。
今は首と手の間とに少し隙間があるが、女の首にはうす赤く、私の手形が残っている。
ふと上を仰いだ。
幼いころに見たのと同じ、鳥の群れに見える木目の天井が私を見下ろしている。
父母や弟達と一緒に寝ていたあの和室だ、と思った。
再び女の方を見て、その瞳を見つめ返したあと、私は目を閉じ、深く息を吸い、そしてゆっくりと時間をかけて吐いた。
再び目を開けた所で、女の口が動いた。
「幸せだった」
私はじっとその口を見つめた。
「ありがとう」
再び女が言うと、その瞳から涙が横にこぼれた。
途端に胸が苦しくなって、私は女の上に倒れかかった。
女の肌は冷たく、頬の赤みも消えていた。
女の流した涙が、私の手にあたった。涙だけが、不思議と温かかった。
天井から、木目の鳥たちが一斉に飛び立ち、大きな羽ばたきの音を建てた後、窓の外に去っていった。
窓の外には、新しい星が輝いていた。
私は、その星が一番よく見える山の上に家を立てて残りの人生を過ごそうと思った。